俳句は心のスケッチ
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これまで神奈川県大和市のインドシナ難民定住援助協会、ハノイの貿易大学と人文社会科学大学、そして横浜の飛鳥学院で日本語を教えてきました。学生の皆さんは、卒業後は日本企業や公的機関で働く、あるいは日本の上級学校へ進む。そのために、日本語能力試験合格を一つの目途として読解、聴解、文法、語彙などの各科目を勉強する。皆さんはまじめに取り組んでいます。
しかし、年がら年中、勉強々々、試験々々ではさすがに疲れる、いやになる。それは学生ばかりではない。先生も疲れる、いやになる。私は難しい顔をして教えるのではなく、笑わせて、大きな口を開けさせて、そこに勉強のエッセンスを放り込む。そんな主義でやっていますから、なんとか皆さんをリラックスさせられないかと考えています。
スピーチ大会、遠足、社会見学、自作自演の日本語劇… その試みの一つが「俳句は心のスケッチ」です。ご覧のとおり、このウェブサイトでも皆さんの俳句を紹介しています。今回はその舞台裏をお知らせしましょう。
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先ず、皆さんと一緒に考えます。私たちは何を勉強しているのか? 一つは、物理、化学、生物、数学などの自然を学ぶ「自然科学」です。そして、政治、経済、経営、法律などの社会を学ぶ「社会科学」です。さらに、哲学、歴史、文学、語学などの「人文科学」があります。この人文科学の目的は何でしょうか? 私はそれは突き詰めて考えれば「人生を学ぶ、何のために生きるかを考える」ことだと思います。俳句は人文科学の中の文学の一分野、日本文学。そのまた一分野、詩歌。さらにそのまた一分野が俳句です。俳句をよむ、そして俳句を作ることを通して自然、人間、社会を観察しようとしています。
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では、日本の詩や歌は各国の歌や詩とくらべて、どんな特徴があるでしょうか。
例えば、アメリカの "Jingle Bells"
Dashing through the snow, in a one-horse open sleigh
Over the fields we go, laughing all the way
Bells on bob-tail ring, making spirits bright
What fun it is to ride and sing, a sleighing song tonight
赤字のところが同じ音です。
次に皆さんご承知、ベトナムの"Kim Văn Kiều"はどうでしょうか。
Trăm năm trong cõi người ta
Chữ tài chữ mệnh khéo là ghét nhau
Trải qua một cuộc bể dâu
Những điều trông thấy mà đau đớn lòng
これも赤字のところが同じ音です。
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それでは日本の歌はどうでしょうか? 例えば「みかんの花咲く丘」です。
みかんの花が 咲いている 思い出の道 丘の道
mikannohanaga saiteiru omoidenomichi okanomichi
はるかに見える 青い海 お船が遠く かすんでる
harukanimieru aoiumi ohunegatooku kasunderu
重なっている音はなさそうです。実は、日本の詩や歌の場合、5-7-5-7-5-7 あるいは
7-5-7-5-7-5というように5音と7音が交互に並びます。上の「みかんの花咲く丘」は
次のとおりです。
みかんのはなが(7) さいている(5) おもいでのみち(7) おかのみち(5)
はるかにみえる(7) あおいうみ(5) おふねがとおく(7) かすんでる(5)
日本人の心には7-5-7-5が心地よいリズムとなって、大昔からまるで体の中の遺伝子のように残っているのです。
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実際に有名な俳句を見てみましょう。俳句はたいへん短いからこそ読み手の想像に
ゆだねる部分が大きいです。言い換えると、想像が広がっていく俳句こそ優れていると言えるでしょう。俳句はうれしいとか悲しいとか感情を直接表現しないで、しかもうれしさ、悲しさを伝えるところが面白い点です。
古池や かわず飛び込む 水の音
ふるいけや かわずとびこむ みずのおと
松尾芭蕉(まつおばしょう)
池のほとりの岩に上った一匹のかえる。小さくポチャンと音を立てて水の中に飛び込んだ。ポチャン… 一回だけ。ほかには何の音も聞こえない。「音」と言いながら、反対に静けさを表しています。
やれ打つな はえが手をする 足をする
やれうつな はえがてをする あしをする
小林一茶(こばやしいっさ)
はえは不衛生な虫です。汚いものの上にとまった後で私たちの食べ物にとまります。はえが好きな人はいません。だれでも追い払ったり、新聞紙やほうきで「パン!」と打って殺してしまいます。一茶は小さなはえが手をすり足をする動作をよく観察し、どうか命を助けてくださいと言っているじゃないか、はえを打ってはいけないと優しい気持ちで見ています。
除夜の妻 白鳥のごと 湯浴みおり
じょやのつま はくちょうのごと ゆあみおり
森澄雄(もりすみお)
毎日毎日、私のため、家族のために働いてくれる妻。一年の最後の最後、除夜。すべての仕事を終えた妻がゆったりとお風呂に入っている。美しい白い体を白鳥に例えています。「ありがとう」という言葉はありません。しかし、妻に対する心からの感謝といたわりが感じられます。
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次は学生の皆さんの俳句です。
バスに乗って やさしい母を まだ見ます
ばすにのって やさしいははを まだみます
ファム・ティ・チャン・ニュン
私は故郷のバス停にいます。明日から新学期が始まるから、都会の大学へ戻らなければなりません。お母さんが見送りに来てくれました。私はバスに乗ってお母さんを見ています。お母さんも私を見ています。バスが動き出しました。だんだん小さくなりながら 手を振っているお母さんをまだ見てい ます。
この俳句には言葉を交わさなくても分かる母と娘の愛情が表れています。私は家族と別れるのは半分悲しいけれど、あとの半分は大学で友達に久しぶりに会えるのがうれしい。お母さんも私と別れるのが半分悲しいけれど、あとの半分は私に頑張ってと期待しています。バスの動きや遠ざかっていく二人の様子が感じられる素晴らしい俳句です。まるで映画のシーンを見ているようです。
高台に 見える全部が 僕の街
たかだいに みえるぜんぶが ぼくのまち
グエン・ヴァン・ミン
学校の裏の道を抜けると野毛山公園。その展望台に上った。高い、高い!ぐるっと360度見渡せる。足元の家々、私の学校、駅の周りのビル、港の向こうのオフィスや高速道路や工場群… そう!これら全部が僕の街、大好きな横浜。
横浜は人口約380万人。東京に次ぐ大都会です。単に大きいだけじゃない。江戸時代末期に開港したミナトヨコハマは国際貿易都市、経済産業都市として発展を続けています。鉄道、水道、ガス、新聞、銀行、電話など日本で最初に事業が行われました。山下公園、港の見える丘公園、この野毛山公園など美しい公園がたくさんあります。もちろんコスモワールドや中華街のような遊ぶところ、食べるところも…。街の人々は世界のどこよりも横浜を愛しています。
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さあ、それでは皆さんもいっしょに俳句を作ってみましょう! その場合、いくつかの約束があります。
先ずは上の444で見たとおり、5-7-5のリズムで感動を言葉に載せるのです。つまり、ひらがなで表すと次のようにです。
あああああ 5
あああああああ 7
あああああ 5
一番大事なことは皆さんの感動です。
① まず、身の回りの対象をよく観察する。目、耳、鼻、皮膚、舌、心、全部を
使う。
② たくさん言葉を集めて、白板に書きだす。
③ 集めた言葉の中から関連する3つのキーワードを探し、5-7-5にまとめます。
・恋人、会いたい、お菓子 ➭ 恋人に 会ってお菓子を 食べたいよ
・白板、漢字、むずかしい ➭ 白板の 漢字読めない むずかしい
・眠い、電車、うるさい ➭ 眠たいが 電車の音が うるさいな
・先生、スマホ ➭ 先生の 話を聞かず スマホ見る
・窓、青い、小鳥 ➭ 窓の外 青い小鳥が 鳴いている
・本、ノート、ペン ➭ 教科書も ノートもペンも みな忘れ
これは5-7-5にまとめる練習ですから、意味はなくてもいいです。
④ 教室での練習が終わったら、外に出て、同じように観察し、たくさんの言葉を
集めてノートへ書きます。そこから俳句(5-7-5)にまとめるのです。
⑤ 直接的に「うれしい、楽しい、悲しい、さびしい」は言わない。間接的に表現
する。
⑥ 漢字を上手に使う。漢字は絵だ。絵の効果を考える。➭ やまor山
一番大事なことは皆さんの感動です。ぜひ俳句作りにトライして、T先生に送ってください!
ぜひ皆さんも俳句作りにトライして、T先生に送ってください!