新聞少年

 

やや旧聞に属しますが、やりきれないニュースに「外国人刑法犯事件のうち、ベトナム人が中国人を抜き、1位に」があります。2017年に全国の警察が摘発した来日外国人の犯罪17千件のうち、ベトナム人による事件が5000件超と約3割を占め、統計を取り始めた1989年以降、国籍別で最多になったことが警察庁のまとめで明らかになりました。その背景には数年前まで5万人程度だった在留ベトナム人が26万人を超えたことにあります。摘発されたベトナム人の事件の4割が店舗での万引きでした。盗品をベトナム本国に空輸するなどして換金する手口が目立ち、凶悪事件とは言えないもののようですが 

私がハノイへ行く前年、一つの用件で東京杉並にある日本語学校の理事長さんを訪ねたことがあります。雑談の中で先方曰く、しばらく前からベトナム人留学生が増えてきたため、ハノイの日本語学校と提携して積極的に受け入れてきたという話です。しかし、理事長さん、「ベトナム人はもうこりごりだ。まあ、鷹野さん、これを見てください。」と言いながら理事長室の大きな引き出しを開けて見せてくれたのです。中には口紅だのマニキュアだの、当時はやりの写ルンですだのコマコマしたものがぎっしり。その理事長さんの日本語学校に入ったものの、しばらくして多くが「潜ってしまった」と言うんです。そのうち警察から身元引受人として呼ばれ、スーパーとかコンビニで万引きした証拠品として見せられたのがその品々だという訳です。

 

私は教室で学生によくこんな話しをします。私が道端で話していること、バスの中で立ったり座ったりしていること、市場で買い物をしていること。そんな私の何気ない日常の言動によって、ベトナム人は日本人を判断しているのだと。それは皆さん自身についても言えること。皆さんが日本に行ったら、皆さんは一人の留学生であると同時に駐日ベトナム大使でもありうる。日本人は皆さんの言動を通してベトナム人を見ているのだ。  

  

その関連で、かつてお会いした在日韓国人の婦人を思い出します。彼女は一人の主婦ですが、家庭のゴミ捨てに日本人以上に気を使っていると言うのです。「私がルールに従ってきちんと分別するか、だらしなく扱うか、それによって日本人は韓国人を判断するから」「私は韓国人の代表ではない。普通の主婦だ。しかし、日本人はそうとばかりは見てくれない」と言うのです。

 

さて、以上は悲しい残念な例ですが、うれしい頼もしいモデルも紹介しなければならないでしょう。グエン・バン・ドン君です。貿易大学を卒業していきましたが、学生時代は中位の成績でその面では目立たなかった。しかし、私が担当した2年次、3年次の2年間、無遅刻無欠席で通したのは称賛に値します。学生の本分とはいえ、なかなかできることではありません。その彼が、当時の日本語学部長の推薦もあって日本へ留学し、日経新聞の配達をしながらある大学院に通うことになりました。「新聞少年」と呼ぶには若干年長ですが、言うまでもなくこれは大変な仕事。改めて日経のホームページを見ますと、配達は午前2時半から6時までと午後3時から5時まで。その前後には折り込み広告等の仕事もあるようです。暑かろうが寒かろうが、雨だろうが風だろうが、雪だろうがヤリだろうが。

 

2011311日、東日本大震災。当時、ドンは池袋の近く、要町というところの販売店に住み込みで働いていましたが、初めての大地震はさぞかし怖かっただろうし、情報が乱れ飛ぶ中、それからの生活に不安にもなっただろう。多くの外国人がそれぞれ自国に帰っていく。ハノイにいた私もかなり心配し、仕事も勉強も手につかないであろう彼に電話をかけました。

 

「どうだ? 元気か? 大きな地震があったが、大丈夫か? 無理をするなよ!」と。その私に対して、彼は「先生、大丈夫です!僕の仕事は新聞配達です。皆さんは僕のニュースを待っています。僕は休みません!配達を続けます!」

 

私は彼の根性に泣けるほど感動しました。その後、ドンは新聞少年を続けながら大学院を卒業、日本で就職し、ベトナム人のお嫁さんをもらい、赤ちゃんも生まれ、今は神戸で幸せに生活しています。 

 

万引きは悪いけれども、ほんの一握りのベトナム人の行状で全体を判断してほしくない。そんな気持ちです。