にぎらせ
昨今ハノイにもスーパーマーケットが増えました。ミニスーパーやコンビニのような24時間営業の店もあります。一方で私たちが子供の頃お世話になった駄菓子屋とかおもちゃ屋とか雑貨屋とか、昔の東京・下町さながらの店もたくさん残っています。日本では駅前の商店街が櫛の歯の抜けたようになっているそうですが、こちらでは大通りでも裏通りでも大小の商店がズラーっと並んでいます。たとえ潰れたとしても、すぐ次の店が。バスに乗って看板など見ていますと次から次へ目移りして、元気な商店街に疲れてしまうほどです。
もちろん市場も健在。屋根付きの市場も屋根なしの露天市場も。私たちが住んでいるマンション1階にちょっとしたスーパーが入っているので、大概の買い物はそこで済ませますが、新鮮で色鮮やかな野菜、果物、肉類は市場の方が豊富。ところが市場には一定の値段なんていうものはない。交渉して決めなければならない。交渉の結果、2割引き、3割引きで買えた!と満足してうれしそうに隣家に話をすると、「鷹野さん、あんたはやっぱり外人ねえ…。」とこちらの鼻を折られてしまう。その次の回、更に値引きさせた値段を報告してもやはり「あんたは外人ねえ…。」
さて、最近読んだ紀行文に面白い話がありました。ペルシャの市場です。やはり正札はありません。そこでの買い物に三つのルールがあるというんですね。第一が相手の値段に合わせてはいけないということ。おやじが10,000リアルと言ったら、こっちはそうだな、先ずは4割引きの6,000リアルから始めるか、ではダメ。相手が何と言おうがその価値は3,000リアルだと思ったら「3,000リアル!」と言わなければならないのだそうです。しかし、それじゃ交渉が成立しない。そこで第二のルールがすぐに店を出ること。
そして第三のルール。これが最も大切なのだそうですが、店を出たら振り向いちゃあいけない。まっすぐにスタスタ歩く。「あれを買っときゃよかった」などと未練がましさを感じさせてはいけない。後ろを振り返るとおやじはしめたと思う。そして追いかけてきて、「さっき、私は10,000リアルと言いましたが、9,000リアルにまけますよ。」と言う。ところが、3,000リアルでしか買わないと決めて歩いて行くと、やはりおやじは追いかけてくるが、言うことが違う。「さっき、お客さんは3,000リアルと仰ったが、4,000リアルでどうです?」となる。振り向き賃が5,000リアルにつくというわけです。これはベトナムでも全く同じ。皆さんもこの手はぜひ覚えていてくださいね。
ところで、いつも隣家から「あんたは外人ねえ」と哀れみとも馬鹿にするとも思われていた私、一計を案じました。実は、実家が小さな花屋を営んでいた関係で商人の気持ちがよく分かるのです。商人は現金が欲しい。なぜ? 仕入れの都度、卸売市場へ現金で払わなければならないから。勿論、これは大昔の話しですよ。今はそんなことはしません。
例えば、露店市場でやはり花を買うとしましょう。向こうは100,000ドン(約500円)と言う。こちらは50,000ドンと言う。向こうは90,000ドン、こっちは60,000ドン…とまあ、競り合います。頑張って頑張って向こうは80,000ドン、こっちも頑張って頑張って70,000ドン。どうしても折り合いがつかない。そこで、私、先ず花束を受け取ってしまう。しっかり腕に抱えてしまう。そして、おもむろに10,000ドン札を「10,000ドン、20,000ドン、30,000ドン…」一枚一枚確認しながら相手の手に握らせる。そして7枚握らせたところで「Cam on! ありがとう!」と言ってその場を去ろうとするのです。当然向こうは承知しません。「ちょっと、ちょっと」と文句を言う。そこでです。私は「あっそう!?じゃあ、いらない!」と言って、抱えていた花束を相手に押し付ける。そして「お金返して!」
これは絶対に効果があります。現金を握ったおばさんはその金を放そうとしない。左手の花束と右手のお金を見比べて、「分かった分かった。持ってけ!ドロボー!」ということになるのです。まあ、残念ながら同じ手で同じに相手に何回も通じることはありませんが…。この話を隣家のおばさんに話したら、「オー!鷹野さんもやっとベトナム人になりましたね。」とにっこり。